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東京地方裁判所 昭和39年(レ)307号 判決

控訴人 クラブ朝明こと菅原洋子

被控訴人 阿部登喜子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人は控訴人に対し一七、九六〇円およびこれに対する昭和三九年四月一三日以降右支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。

「一、控訴人は銀座においてキヤバレーを経営しているが、昭和三七年一一月一九日に被控訴人をいわゆるホステスとして雇用した。

二、控訴人はいずれも右キヤバレーにおいて左記の日に被控訴人の接待を受けて飲食した左記の四名に対して左記の飲食代金債権を取得した。

客       日       金額

(一)  向井某 昭和三七年一二月一二日 五、二二〇円

(二)  片柳某 同日          三、五四〇円

(三)  中里某 同月一八日       四、二〇〇円

(四)  井沢某 同月二二日       五、〇〇〇円

右合計 一七、九六〇円

三、被控訴人は、控訴人に雇入れられるに際してなした、被控訴人が接待に当つた顧客の飲食代金についてはその責に任ずるとの約旨に基き、右四名が控訴人方で飲食した当時右四名の飲食代金債務を各自につき一〇、〇〇〇円の限度で保証する旨約した。

四、よつて控訴人は被控訴人に対し右四名の債務合計一七、九六〇円の支払と、右支払を求める旨記載した本件訴状が被控訴人に送達された日の翌日である昭和三九年四月一三日以降右支払済みまで右金員に対する民事法定利率年五分の割合による金員の支払を求める。」

被控訴人は適式な呼出を受けながら原審および当審の口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面を提出しない。

理由

民事訴訟法第一四〇条第三項により被控訴人は控訴人の請求原因事実を全部自白したものとみなす。

右事実によれば、控訴人は本件保証契約により自ら客から取立てるべき飲食代金を自己の被用者である被控訴人に支払わせ得るわけであつて被控訴人の負担において一方的に利益を得る結果となることが明らかである。このような場合、被控訴人と客との間に何らかの特別な関係があつて、そのために被控訴人が右のような一方的な不利益を忍んでもなお本件保証契約を結ぶに至つたというような特別な事情があり、従つて被控訴人に保証債務を負わせても社会正義に反しないと認められるならば格別、そうでないかぎり右契約は控訴人が被控訴人に対する使用者であるという優越的な地位を利用して、経営者の負担すべき危険を回避して労することなく客の代金の回収を図ることを目的とするもので、単に客の接待係として雇用したにすぎない者に対し不当に不利益を強いることとなり、善良な風俗に反し無効であると認めるのが相当である。そうして本件において被控訴人がたまたま右四名の接待に当つたということ以外に、被控訴人が本件保証契約を締結するについて前記のような特別な事情があることは控訴人が何ら主張立証しないところである。従つて本件保証契約は無効であるから、控訴人の請求は理由がない。

よつて控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条および第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 上野宏 川上泉 青山正明)

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